【本】森は知っている 吉田修一が描く思春期の心の動きが秀逸!感想

久々のブックレビューです。

みんな大好き吉田修一の産業スパイアクションシリーズを読み始めたので、感想をば。

このスパイシリーズは「太陽は沈まない」が一番最初に刊行されています。しかし、このシリーズはどの本から読んでも完結するようになっているので個人的には、「森は知っている」から読み始めるのがおすすめです。

今回は、「森は知っている」の感想と考察を書いています。

ネタバレはないよん。

森は知っている は主人公・鷹野のプロローグ小説 序盤

「森は知っている」は主人公・鷹野一彦を中心に繰り広げられる産業スパイアクションの小説です。

シリーズものとなっていて、一番最初に出版されたのが「太陽は動かない」、次に「森は知っている」最後が「ウォーターゲーム」という構成になっています。

しかし、「森は知っている」は主人公鷹野のプロローグとなっているので、この本から読み始めても違和感がありません。むしろ私は、プロローグから読み始めて良かったと思っているので「森は知っている」から読み始めるのがおすすめです。

この鷹野一彦シリーズは、2020年に映画化&WOWOWでドラマ化されるみたい。

でも私の中で鷹野は藤原竜也じゃないんだよなぁ~藤原竜也好きだけど。

主人公・鷹野の生い立ちに焦点を当てたこの作品。

この小説のポイントとなるのは、初恋と抗えない運命、友情ではないでしょうか。

というわけで、「森は知っている」を3つの面から感想を書いていこうかと。

  1. 恋愛
  2. 友情
  3. 生き方

この順番ね。

恋愛.鷹野の初恋と南の島の風景が胸キュン

スパイアクション小説ですが、青春小説としても読むことができます。

他の作家さんでもアクションのヒリヒリする展開を描けますが、初恋と友情を絡めたアクション小説はなかなかないんじゃないかな。

しかも、青春のシーンは吉田修一ワールドが全開。胸の奥ががキュンって切なくなるあの感じが、今作でも味わえます。

なんというか…言葉にし難い、機微な心の動きを表現するのが上手なんですよね。読んでいて映像が浮かぶし、登場人物の気持ちに移入しちゃう感じ。とっても好きです。

若い時にしか感じられない、刹那と自分の気持ちを上手く表現できずに戸惑う登場人物たちが良い。

しかも、舞台は沖縄のような南の島です。青春映画を観ているのかな?っていうくらい描写が丁寧なので、入り込んじゃう。

ちょっと、マンガ「溺れるナイフ」に通ずるものがあると感じたんだけど、分かってくれる人いるかなー。

自分一人じゃ運命に抗えない感じとか。てか、溺れるナイフを読んでたアラサーいるかなー。いたら飛んで喜ぶ。

いいよねあのマンガ。

友情.組織と友情 戸惑う鷹野

序盤は、これまでの吉田修一の青春小説に似た温度でストーリーが進んでいきます。吉田修一って男子の惰性で生きている様子を描かせたらピカイチですよね。

平々凡々な男友達との高校生活と、産業スパイとしての訓練が始まる日々とのコントラストがハッキリしているので、読んでいて飽きません。

主人公・鷹野と同じような境遇で、一足先にAN通信のスパイとなった柳との関係も揺れ動きます。柳の「本当にAN通信でやっていくのか?」という不安と戸惑い。鷹野は鷹野で、柳を信じたい気持ちとAN通信で板挟みになる苦しさなんかが印象的です。

生き方.虐待と24時間だけ生きる諜報員どちらが人間らしいのか

AN通信の諜報員は皆、壮絶な虐待から生き延びたサバイバーです。虐待された子という過去を捨てて、毎日24時間ごとにAN通信に連絡をして諜報員として活躍します。

24時間ごとの報告が途切れると、胸に埋め込まれた爆弾が爆破されてしまうのです。つまり、常に24時間の命ということ。

スパイ映画みたいですよね。まぁスパイ小説なんで、さもありなんなんですけど。

この作品は、AN通信に入るまでの訓練とテストの過程を描いているので、まだ鷹野の胸には、爆弾は埋め込まれていません。

はたから見れば、元虐待児を24時間ごとに命を引き延ばす産業スパイの駒として使うのは人権侵害でしょう。しかし、「彼ら(虐待児)にとって、そのまま虐待する親と一緒に暮らすのが幸せなのか?」という問題に突き当たります。

主人公・鷹野の虐待は、実際に起きた大阪2児餓死事件と苫小牧の餓死事件を参考にしているようです。窓をガムテープで張り付けて母親が出ていった事件…衝撃だったのを覚えています。

これらの事件は「ネグレクト」という単語を世間に浸透させたよね…!

本当に虐待児を親の元に送り返すのが、彼らにとって幸せなのか。違う人間として生まれ変わって、たとえ不本意だとしても産業スパイとして世界中を駆け回った方が人間らしいのではないか。

アクション小説なのに、「人間の生きる権利とは?」みたいなものを読者に突き付けてくるあたり、吉田修一の「怒り」や「悪人」なんかを彷彿とさせます。

森は知っている 中盤は「生きること」について考えさせられる

森は知っている

この小説はスパイアクション小説なはずなのに、中盤は「生きること」について考えさせられます。

鷹野と柳との違い、鷹野を引き取った風間と富美子さんの愛情、将来への希望、これらが交差しながらストーリーが展開しつつ、スリリングなアクションもブッ込まれるので、アメドラを観ている感覚です。シリーズもののアメドラを観ている人なら分かるはず。

鷹野を見守る富美子さんと風間

児童相談所から鷹野を引き取って風間と富美子さんが育てるわけなんですけど、まーこれが壮絶。

妙にリアリティがあってゾワゾワしました。虐待児について取材したんかな。。妙にリアル。

荒れる鷹野を風間と富美子さんが受け止めるんですけど、二人の愛深し…!血は繋がっていなくても、家族なのよねぇ。

富美子さんと鷹野の関係は、完全に母親と上京した息子で心配する富美子さんの様子がいじらしいです。

柳と鷹野の決定的な違い

鷹野と柳の一番の違いは、「生きなきゃいけない理由があるか」でしょう。

柳には、守らなくてはいけない存在がいます。

一方で、鷹野は何もない。何もないからAN通信で働くことに葛藤はしつつも覚悟を決めている。とりあえず、一日を生きることに集中しているんですよね。

でも、2人とも生きることに必死。方向が違うだけで、必死。鷹野には自覚はないけど、鷹野も大事なものができたから、一日を一生懸命生きているのでしょう。

人間って、誰かに求められたり望まれて初めて生きる活力が湧いてくるものなんでしょうね。

森は知っている 終盤は息をのむアクションシーン!

読み進めていくにつれて、アクションの色が濃くなっていきます。

他のアクション小説と「毛色が違うな」と感じるのは、ちょっと映画っぽいとこころかな。007やミッションインポッシブル、ボーンスプレマシーみたいな感じ。現実的ではないけどワクワクさせてくれる小説です。

難しいことなしで、楽しんでいこーーぜ!?」っていうアメリカ映画のノリで読むと良いと思う。本格ミステリーアクションだと思って読むと鼻白むかも。

なんというか、映像化する前提で作ったのかな?っていうくらい、映像向きなシーンが後半に向けて多くなります。

終盤はネタバレしちゃうから、サラッといきましょうか。

裏切り裏切られの連続

終盤は、誰が味方で、誰が裏切り者なのか…!という、スパイ小説の王道です。

普通から多くのスパイ小説を読んでいると、早いうちから裏切り者が分かったりするものですが、これは気を抜いていたー!

途中まで全然分からなかったよ!

しかし、ちゃんと動機をしっかり文字にしてくれなかったのは残念。これは好みの問題だけどね。余韻を残すタイプはあまり好まないもので…

あと、本当にあっけない笑。

一気にダダダダダダ!!!!って最後は話が畳み掛けるように進んで、はい!終了!といった感じです。でも、それはそれでテンポよくて好きかな。

色々書きたいけどネタバレしちゃうからな。ここら辺で止めておこう笑。

森は知っている まとめ

この小説は、序盤は吉田修一の青春小説を読んでいるようで、中盤は「悪人」などの重い題材を読んでいるように感じます。

そして最後は、新たな一面を見せてくれたアクション小説。

なんというか、吉田修一の集大成的な感じかな。

重い題材も扱ってはいるものの、ベースは前向きな話なので、疲れているときでも軽く読めるのが良いですね。

アクション映画が好きなら、どハマりすると思います♡

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